京都大学放射線生物研究センター

放射線染色体異常データベース 更新しました

2017.8.8

放生研の放射線染色体異常データベース(Radiation Cytogenetics Database)は2000年に作成されたものであるが、当時は未発表の実験データも含み、データの利用に当たっては「許諾」を求めていた。最近になり、ヨーロッパを中心にデータベースの相互リンクによる研究の推進やWebをプラットホームとした共同研究が盛んになりつつある(MELODI-Multidisciplinary European Low Dose Research Initiative、DoReMi-Low Dose Research towards Multidisciplinary Integration、HLEG-High Level Expert Group on Low Dose Risk Research)。放生研のデータベースはこれまでにもデータ利用や論文引用等に利用されてきたが、この度、MELODIから自由アクセスによるリンクの要望もあり、これを契機に「許諾」の制約を削除すると共に内容を大幅に更新した。

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内容は大別して、全国共同利用研究施設としての活動から得られた放射線細胞遺伝学の成果(1-3)と関連する国内外の研究(4-5)より成る。後者については独自の論評を付した。

(1) 放射線細胞遺伝学の基礎知識と研究法
・放射線細胞遺伝学の歴史と関連するわが国におけるインフラ
・放射線細胞遺伝学研究の基礎知識と実験手法
・染色体異常観察のトレーニング(downloadable pptx file)
(2) 各種放射線によるヒトリンパ球の染色体異常の線量効果
・X線(含:軟X線)、γ線、陽子、α線、中性子
(3) 各種放射線被ばく集団における染色体調査の結果
・トロトラスト患者、医療放射線技師、JCO事故等
(4) その他、文献に見られる関連する放射線被ばくの染色体調査
・放射線事故、原発事故、核実験、核処理施設、宇宙飛行等
(5) 放射線の細胞遺伝学的次世代影響に関する研究
(6) 補遺(線量効果と素線量、バイオドジメトリー法等

放射線と染色体異常の研究には長い歴史があり、細胞レベルでその線量・線質・線量率の対応が確認できる数少ない生物指標の1つである。最近、ヒトの放射線被ばくに対する重点が低線量・低線量率に移ると、研究は大規模となって1研究室のレベルを超える。ヨーロッパでは情報ネットワークとweb-based scoreで対応を試みる。そして最終的にはECRR (European Community on Radiation Protection and Risk)に集約し、独自のリスク評価や規制に生かそうとする。わが国にはそのような研究のプラットホームはまだない。このデータベースが情報の共有を通して研究の推進に少しでも役立てば幸いである。

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佐々木正夫(京都大学名誉教授・元放射線生物研究センター教授)