京都大学放射線生物研究センター

福島原発事故に関する報道を読み解く用語解説

放射線の種類
放射線は一種類ではありません。携帯電話の電波のように波の性質を持つエックス線やガンマ線、そして粒子の性質をもつ電子線、アルファ線、陽子線、中性子線などがあります。これらの粒子線はもともと原子核を形づくっていた粒子です。原子炉のウランの核分裂により中性子が発生しますが、水などの軽い物質でエネルギーを弱めることが出来ます。一方、ガンマ線をストップさせるにはもっと重い鉛のような物質を使います。放射線の種類により透過力や生物への影響の程度が異なります。
放射線と放射能
放射能と放射線は同じではありません。放射能とは、不安定な物質(放射性物質)が放射線を出してこわれ、別の物質に変化する能力の事です。例えて言うならば、焚き火で暖を取る時に、燃えている焚き木が放射性物質で、そこから出てくる熱や光が放射線、火の勢いが放射能です。
グレイ(シーベルト)とベクレル
放射線は物質に当たって、最終的には熱になります。単位重量あたりに発生する熱エネルギーをもとに、放射線量の単位としてグレイが定義されております。全身に4グレイを被ばくすると二人に1人が30日間に死亡する放射線量です。ミリグレイはその1000分の1です。シーベルトは異なる放射線の影響を比較するときに重要な放射線の単位ですが、エックス線やガンマ線では1グレイが1シーベルトで同じだと考えて良いです(中性子やアルファ線などは別)。一方、放射能の単位としては放射性物質の重量でも良いのですが、小数点以下いくつも0がならび不便です。そこで、放射能の単位として1秒間に一個の原子がこわれる時に1ベクレルと定義しています。機械で測定したときのメーターの値cpm (counts per minute、1分あたりに検出できた放射線の数)を放射能量や放射線量の目安として使うことがあります。
自然放射能と医療被ばく
我々は環境中から少量の放射線を受けています。これらは地球が誕生したときに既に存在していた放射性物質や宇宙からの放射線が原因です。例えば、乾燥しいたけ100gには67ベックレルの放射性物質のカリウム-40が含まれています。地域によっても異なりますが、これらから我々が年間に被ばくする放射線量は2ミリシーベルトです。医療行為による被ばくでは我が国の国民で平均すると年間1ミリシーベルト程度と考えられています。CTスキャンを一回受けると10ミリシーベルト程度被ばくします。
体内被ばく
病院で使うエックス線のように体外から放射線を受けるのに対して、体内に放射性物質が取り込まれてそこから放射線を受ける場合があります。体内被ばくによる放射線の影響は体外被ばくと差はありませんが、次のような特徴があります。
1)放射性物質が特定臓器に集まる結果、そこで多量の被ばくを受ける事がある、例えば、甲状腺におけるヨード
2)この場合、放射性物質の物理的半減期に加えて、代謝により体内から排泄されるスピードが重要になる
3)アルファ線は透過力がないので体外からの被ばくでは問題にならないが、アルファ線を出す放射性物質が体内に入ると時として大きな障害をもたらすことがあります。このため、水や食物の摂取、あるいは気体の吸入、皮膚への付着などにより体内に放射性物質を取り込まないようにすることが大事です。
放射性物質による汚染と除染
原子炉から放出された放射性物質が空中を漂ってきて体や衣服に付着すると、汚染されたことになります。汚染されたかどうかは、持ち運び可能な装置で簡単にチェック可能です。衣服を脱ぎ、水や洗剤で体を洗うことで付着した放射性物質を除くことができ、これを「除染」と呼んでいます。
早期障害と晩発障害
身体的影響には放射線を受けてから数日から数週間以内に症状がでる早期障害と、発癌のように数十年後に発生する晩発障害があります。例えば、500ミリシーベルト以上の放射線被ばくを受けると血液中のリンパ球が数日内に一過性に減少することがあります。これ以下の放射線量ではリンパ球の減少は見られません。このように、早期障害には閾値があって、ある程度以上の被ばくをしないと症状が出ない特徴があります。これに対して発がんは低い放射線量でも低いなりに発生するリスクがあると考えられています。この発がんリスクが放射線の被ばく線量の規制数値のもとになっています。
放射線による損傷とDNA修復
体内を透過した放射線が細胞内のDNAを高頻度に傷つけることが放射線障害の原因となります。ヒトの細胞あたりのDNAは伸ばすと約2メートルになりますが、1グレイの放射線を受けると約40-60カ所でDNA が切断されます。しかし、DNA切断は通常の細胞でも起こり、修復機構により再結合します。放射線の場合にもDNA切断がそのまま残るのでなく、再結合あるいは傷ついた細胞を排除する我々の体の一定の防御機構が働いています。
関連ウエブへのリンク
日本放射線影響学会
International Atomic Energy Agency
SMCサイエンス・メディア・センター
早野教授のまとめ
放射線医学総合研究所